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【英詩入門】ソネットの書き方・種類・歴史をわかりやすく解説
はじめに
こんにちは、クロイツェルです。今日は英詩の世界で最もポピュラーな定型詩「ソネット」の世界を一緒にのぞいてみましょう。俳句や短歌にも決まり事があるように、ソネットにも「14行で書く」などのルールがあり、その制約がかえって自由な詩を生んできたんです。
ちなみにソネットという名前はイタリア語の「sonetto(ソネット)」──「小さな歌」という言葉から来ています。13世紀のシチリアで生まれ、イングランドに渡ってシェイクスピアが大ブームを巻き起こした…という旅を経て、今も世界じゅうで愛されている型なんですね。
この記事の流れ
本稿では次のステップでソネットの世界を旅します。
- 「ソネットとは?」―― 行数・リズムなど基本ルールをざっくり確認
- 代表的な3つの伝統的ソネット(イタリア式/英国式/スペンサー式)
- 20世紀以降の”変形”ソネット
- 日本におけるソネット受容史(明治〜現代)
- ソネットと音楽の意外に深い関係 気になるところから読み進めてもOKです。
ソネットとは?
ソネットは、一つのテーマやアイデアを14行にギュッと閉じ込めるミニマルな詩です。英語圏では各行が「弱い拍 → 強い拍」を5回くり返す**弱強五歩格(アイアンビック・ペンタメーター)**が王道。ざっくり言えば「タッ|タタッ|タッ|タタッ|タッ」という心臓の鼓動みたいなリズムを14行続けるイメージですね。
といってもピンと来ないですよね。具体的に、有名なシェイクスピアの〈ソネット18番〉を見てみましょう。「Shall I compare thee to a summer’s day?」で始まる、世界で最も有名なソネットです。ここでは弱 → 強、弱 → 強……とアクセントが波打つように展開されます。
ソネット18番(原文+日本語訳)
原文
Shall I compare thee to a summer's day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May,
And summer's lease hath all too short a date:
Sometime too hot the eye of heaven shines,
And often is his gold complexion dimm'd;
And every fair from fair sometime declines,
By chance or nature's changing course untrimm'd;
But thy eternal summer shall not fade
Nor lose possession of that fair thou owest;
Nor shall Death brag thou wander'st in his shade,
When in eternal lines to time thou growest:
So long as men can breathe or eyes can see,
So long lives this, and this gives life to thee.
日本語訳
君を夏の日に喩えようか
君はより美しくたおやかだ
激しい風が5月のつぼみを揺らせば
夏の約束はあまりに短い
ときに日差しはあまりに強烈で
ときに輝く表情を曇らせる
そう、すべての美しいものはいつかその美を失う
偶然か、自然のもたらす変化によって
それでも、貴方の永遠の夏は色褪せることなく
貴方の美を損なうこともない
死でさえも、あなたがその影をさまようと触れ回ることはできない
あなたは、「詩」という永遠の中で生き続けるのだから
人が息をして、目が見える限り
この詩が生き続け、貴方にいのちを吹き込む限り
さて、それではこの行を使ってソネットを理解する上で必要な基本的な用語の確認をしておきましょう。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 音節(syllable) | 言語の音の区切りとなる単位で、母音単独または1つの母音+周囲の子音。例えば、”the“は1音節の単語で、“compare“(kum-pair)は2音節。 |
| ストレス(アクセント) | 強く発音される音節。詩においてはストレスの強弱を利用してさまざまなパターンを生み出す。 |
図で表すと以下のようになります。ストレスアリの部分を(ス)なしの部分を(無)としてみました。一番小さい箱が1音節を構成し、箱二つが脚を構成しているのがわかると思います。これが、いわゆる弱強五歩格(iambic pentameter)の基本的な形です。
ソネットは、この弱強五歩格を14行ならべて作られます。
リズムや用語の詳細は気にしすぎなくても大丈夫。
- 14行
- 途中で視点がガラッと変わるヴォルタ
この2つを知っていればまずはOKです。
伝統的には、14行を「8行 + 6行」や「4行×3 + 2行」に区切って、8行目付近で視点をクイッと切り替えるのが王道パターン。この切り替えこそが”ヴォルタ”です。
例えば、例として出したソネット18番では、最初の12行で夏の日の美しさやその移ろいやすさを語りますが、(8行目ではないですが)13行目からの二行連で「あなたの美しさは私の詩の中で永遠に生き続ける」と結論づけます。この12行目と13行目の間がヴォルタにあたります。
ソネットの種類
14行という包み紙は同じでも、中身の折りたたみ方は国や時代で千差万別。ここでは「イタリア式」「英国(シェイクスピア)式」「スペンサー式」という定番3スタイルをサクッと紹介します。
イタリア式(ペトラルカ式)
ルーツは13世紀イタリア。ペトラルカが磨きあげた形なので「ペトラルカ式」とも呼ばれます。
- 8行で問題提起(Octave)+6行でオチ(Sestet)
- 押韻は ABBA ABBA / CDE CDE(後半はバリエーションあり)
- ヴォルタはきっちり8行目後、つまり真ん中で気分を切り替える
八行詩で「うわ〜どうしよう」と盛り上げて、六行詩で「いや待て、こう考えよう」と着地するイメージですね。
ペトラルカ式ソネットの例
ジョン・ミルトンの「我が光の失せしを思う時」(When I consider how my light is spent)は、ペトラルカ式ソネットの代表的な例です。八行詩(Octave)で問題提起(失明による絶望)をし、六行詩(Sestet)で解決(神への奉仕の形)を提示する構成になっています。
When I consider how my light is spent,
Ere half my days, in this dark world and wide,
And that one Talent which is death to hide
Lodged with me useless, though my Soul more bent
To serve therewith my Maker, and present
My true account, lest he returning chide;
"Doth God exact day-labour, light denied?"
I fondly ask. But patience, to prevent
That murmur, soon replies, "God doth not need
Either man's work or his own gifts; who best
Bear his mild yoke, they serve him best. His state
Is Kingly. Thousands at his bidding speed
And post o'er Land and Ocean without rest:
They also serve who only stand and wait."
日本語訳
我が光(視力)がいかに尽きたかを思うとき、
人生の半ばも過ぎぬうちに、この暗く広い世界で。
そして、あの隠せば死にも等しい一つの才能(タラントン)が
私の中に役立たずのまま宿っているのを思うとき――私の魂は、
それをもって創造主に仕え、主が戻られたときに叱責を受けぬよう
我が真の報告をしたいと、より強く願っているにもかかわらず。
「神は、光を奪っておきながら、日々の労働を要求されるのか?」
と私は愚かにも問う。だが「忍耐」が、その呟きを制するように
すぐにこう答える。「神は人の働きも、神自身の賜物(の返礼)をも
必要とはされない。神の穏やかな軛(くびき)を最もよく負う者こそ、
最もよく神に仕える者なのだ。神の国は王のよう。
その命により、幾千もの者たちが陸を海を休みなく駆け巡る。
ただ立ち、待つだけの者もまた、(神に)仕えているのである。」
2. 英国式またはシェイクスピア式ソネット
エリザベス朝時代のイングランドで発展したシェイクスピア式ソネットは以下で構成されています。
- 三つの四行連: ABAB CDCD EFEFの韻律法を持つ4行ずつの3つの連。各四行連はテーマやアイデアを独自の方法で展開します。
- 二行連: GGの韻律法を持つ最後の2行の連。この二行連は多くの場合、結論、解決、または意外な展開を提供します。
すでに見たように、シェイクスピア式ソネットの「ヴォルタ」は通常、最後の二行連の前に現れます。
3. スペンサー式ソネット
英国の詩人エドマンド・スペンサーにちなんで名付けられたこの形式は、シェイクスピア式ソネットの変形です。三つの四行連と二行連の構造を維持していますが、より複雑な韻律法:ABAB BCBC CDCD EEを使用します。この「連鎖韻」として知られる連鎖的な韻律法は、四行連間の連続性と流れを生み出します。これがシェイクスピア式とスペンサー式ソネットの主な違いです。
スペンサー式ソネットの例
エドマンド・スペンサーの『アモレッティ』(Amoretti) からソネット75番を見てみましょう。このソネットは、連鎖韻 (ABAB BCBC CDCD EE) の特徴がよく表れています。
原文 (Amoretti 75)
One day I wrote her name upon the strand, (A)
But came the waves and washed it away: (B)
Again I wrote it with a second hand, (A)
But came the tide, and made my pains his prey. (B)
"Vain man," said she, "that dost in vain assay, (B)
A mortal thing so to immortalize; (C)
For I myself shall like to this decay, (B)
And eke my name be wiped out likewise." (C)
"Not so," (quod I) "let baser things devise (C)
To die in dust, but you shall live by fame: (D)
My verse your virtues rare shall eternize, (C)
And in the heavens write your glorious name: (D)
Where whenas Death shall all the world subdue, (E)
Our love shall live, and later life renew." (E)
日本語訳
ある日、私は彼女の名を砂浜に書いた、
だが波が来てそれを洗い流した。
再び、私はそれを二度目の手で書いた、
だが潮が来て、私の苦労を餌食とした。
「虚しい人」と彼女は言った、「虚しく試みるのですね、
死すべきものを不滅にしようとするなんて。
私自身もこれと同じように朽ち果て、
私の名も同じように消し去られるでしょう。」
「そうではない」と私は言った、「卑しいものは
塵となって死ぬように定められているが、あなたは名声によって生きるだろう。
私の詩があなたの稀なる美徳を永遠のものとし、
天にあなたの輝かしい名を書き記すだろう。
死が全世界を征服するときも、
私たちの愛は生き続け、後の世に蘇るだろう。」
現代のソネット
20世紀には、エドナ・セント・ヴィンセント・ミレー、ロバート・ローウェル、W.H.オーデンなどの詩人たちが、独自の変形を生み出すことでソネットの形式を継続的に使用し、進化させました。これらの現代的な変形は、イタリア式と英国式ソネットの違いよりも極端です。現代の詩人たちは、無韻のソネット、六行詩が八行詩に先行する「逆転」ソネット、そして独特な韻律法を持つソネットを書いています(詳しくはまた別の記事で)。
日本におけるソネット受容
日本のソネット受容についてはそこまで詳しくないですが、調べた範囲で書いてみます。
日本でソネットという14行詩形が本格的に紹介されたのは、明治期の翻訳ブームに端を発します。当時の詩人・翻訳家たちは、西洋近代文学とともにソネットを「新しい韻律の実験場」とみなし、日本語というまったく異質な言語にどう適応させるかを試行錯誤しました。以下では、おおまかな時代区分に沿って受容の歩みをたどり、その背景にある技術的・文化的課題を見ていきます。
明治〜大正:翻訳と”詩形の移植”
| 年代 | 主な人物/出来事 | 概要 |
|---|---|---|
| 1880–90年代 | 森鷗外(独文学者)/上田敏(訳詩『海潮音』, 1905) | ドイツ・フランス象徴派詩の紹介の過程で、ペトラルカやボードレールのソネットが散発的に訳出される。上田敏は「韻律よりもイメージの移植」を重視し、日本語訳では行数こそ14行だが押韻は排し、七五調や口語のリズムを用いた。 |
| 1897 | 島崎藤村『若菜集』 | 近代日本初の”自作”ソネットとされる〈曠野に立ちて〉等を発表。弱強五歩格を模倣できないため、五七調+自由律を組み合わせる折衷案を採用。 |
| 1910年代 | 北原白秋『邪宗門』『思ひ出』 | 音楽的日本語の実験という観点からソネットを書き、内部韻・子音の反復を駆使。白秋は韻脚を「同音母音+語末子音」で近似させる”準押韻”を提案した。 |
昭和:形式探求とモダニズム
昭和初期になると、モダニズム詩人たちが欧米の新古典主義と交差する形でソネットを再評価しました。
- 中原中也はイェイツに触発され、14行を保ちつつ脚韻を放棄したソネットを試作。
- 堀口大学の仏詩訳は、アレクサンドラン12音節を7–5調に割り振る手法で、翻訳と創作の境界を曖昧にしました。
- 1930年代には『詩と詩論』誌が特集を組み、ソネット=西洋的教養というイメージが定着します。
日本語でソネットを書くときの課題
- 音節 vs. モーラ問題 — 英語の「syllable」は日本語の拍と一致しないため、5–7拍×2=12拍で弱強五歩格を近似するなど、代替指標が必要。
- 押韻の希薄さ — 日本語は語末母音が同質化しやすく、脚韻の区別が難しい。準韻(半母音韻)や語彙反復で代替する手法が主流。
- 表記体系 — ひらがな/カタカナ/漢字の混在が視覚リズムを阻害しうる一方、視覚芸術としての自由度を生む。
参考リンク
ソネットは「輸入文学形式」の枠を超え、日本語の詩作においても制約が産む自由を体現してきました。14行という器をどう響かせるか。その挑戦は現在も続いています。
おわりに
構造化された形式と表現の可能性を持つソネットは、今でも愛される詩の形式であり続けています。13世紀のシチリアのジャコモ・ダ・レンティーニから、シェイクスピアによるイングランドでの進化まで、ソネットは何世紀にもわたって読者と作家を魅了してきました。それぞれ独自の構造と韻律法を持つ様々な種類のソネットは、幅広いテーマと感情を探求するための枠組みを提供します。伝統的なソネットは厳格な規則に従いますが、現代の詩人たちは形式を実験し続け、構造と韻の境界を押し広げています。この永続的な魅力と適応性により、ソネットは現代文学において活力に満ちた関連性のある詩の形式であり続けています。